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仙台地方裁判所 昭和58年(行ウ)9号 判決

宮城県古川市李埣字明神一三番地

原告

梅森昭雄

宮城県古川市幸町一丁目二番一号

被告

古川税務署長

上村直

右指定代理人

林勘市

右指定代理人

庄司勉

佐々木範三

鈴木洋一

武山洋明

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、古川市東町三番四三号佐藤きをに対して国税犯則取締法一二条ノ二に基づく告発の手続を為さぬことの違法であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

主文同旨。

三  本案の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  古川市東町三番四三号佐藤きをは、五年間で約一億円の所得を隠し、仙台国税局調査査察部の査察調査を受け、その結果重加算税を含め約五、四〇〇万円の所得税を追徴された。

2  佐藤きをは所得税法一二〇条一項三号に規定する所得税の額につき、偽りその他不正の行為により所得税を免れた者である。

3  ところが、被告は、佐藤きをに対して、国税犯則取締法一二条ノ二に基づく告発の手続をしていない。

4  原告は、被告その他の行政庁に対して処分についての(佐藤きをに対する犯則事件について告発の手続をとるようにとの)申請を為したが、当該申請に対し行政庁は相当の期間内に処分を為さない。

5  よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  被告の本案前の主張

不作為の違法確認の訴えとは、私人からする法令に基づく申請に対し、行政庁が相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらずこれをしない場合に、その違法の確認を求める訴訟であり、もともと、法令に基づく申請に対する行政庁の違法な不作為から私人の権利を救済することを目的とするものであるから、私人から法令に基づく申請のされていることが訴えの要件となるものである。

そして、申請が法令に基づくものとされるためには、法令上私人が行政庁に対し一定の事件について処分又は裁決をすべき旨を申請する具体的請求権が認められていること、換言すれば、法令が行政庁に私人の申請について何らかの応答をすべき義務を課していることが必要であると解すべきである。

本件において原告は国税犯則取締法に基づく告発手続に関し、被告に問い合わせをしたものにすぎず、それが法令に基づく申請でないことは明らかである。

よって本訴は不適法として却下さるべきである。

三  本案前の主張に対する原告の反論

行政事件訴訟法三七条は不作為の違法確認の訴えにつき、「処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができる。」旨規定し、申請権のある者に限定していない故、現実に申請した者は申請権の有無にかかわらず訴えを提起し得るものと解される。

すなわち、現実に申請をした者であれば、行政庁が当該申請事項に対応する何らかの処分をしないことが違法であるかどうかの判断を求めるだけの必要ないし利益はあるということができ、申請権限の有無は本案の問題であり、原告適格の問題ではない。

四  請求原因に対する被告の答弁

請求原因第3項は認めるが、その余の請求原因事実はいずれも争う。

第三証拠

一  原告

甲第一ないし第一四号証を提出。

二  被告

甲第二ないし第四号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

三  職権

原告本人の尋問をした。

理由

一  原告の本件訴えは、原告が被告に対し、佐藤きをに対して国税犯則取締法一二条ノ二に基づく告発の手続をするよう求めたにもかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求めるというのであるが、本案に対する判断に先だって、原告適格の点について判断する。

原告は、行政事件訴訟法三七条が、不作為の違法確認の訴えの原告適格について、処分又は裁決についての申請をした者に限り、これを提起することができるものと定めているところから、処分又は裁決について現実に申請をしておれば、その者に申請権が認められているかどうかを問わず、原告適格が肯定されるべきである旨を主張している。

しかし、不作為の違法確認の訴えとは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟であると定められている(同法三条五項)ことからみて、その目的は申請権を与えられている者の不利益を救済することであり、申請権の有無は論理的には行政庁の不作為が違法であるかどうかの判断の前提となるものであるから、法令に基づかない申請をした者が不作為について訴訟を提起したとしても、不作為が成立する余地はないものというべきである。すなわち、申請権を欠く者は原告適格を有しないものというべきである。

ところで、刑事訴訟法に何人でも犯罪があると思料するときは告発をすることができるものと定められているのは、特別な個人的利害関係をもたない一般公衆にも公共の利益の見地から刑事司法の運用に関与させる趣旨の下に認められたにすぎないものというべきものである。原告の被告に対する本件申請についても同じであることはいうまでもない。

従って、たとえ被告が原告から佐藤きをに対して告発をするよう申請を受けたにもかかわらず、これについて相当の期間内になんらかの手続をしなかったとしても、そのことがただちに該申請をした原告の個人的利益を害したこととなるものではない。被告ら収税官吏は原告の本件申請に対してなんらかの応答をなすべき義務を有しているものではない。従って、原告は、被告が告発をしないことについての違法の確認を求めることはできないものというべきである。

二  してみると、原告の本件不作為の違法確認の訴えは不適法なものというべきであるから、本件訴えは却下を免れない。そこで、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田平次郎 裁判官 河村潤治 裁判官 林正宏)

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